Studyplusトレンド研究所では、公益財団法人山田進太郎D&I財団とともに2024年4月に「文理選択に影響を与える要因:高校生・大学生の進路実態調査」を実施し、8,831名の高校生・大学1,2年生から回答を得ました。
<調査概要>
調査対象 : 全国の「Studyplus」ユーザー(現役の高校生、大学1年生、大学2年生)
回答者 : 8,831名
調査方法 : 学習管理アプリ「Studyplus」上でアンケート回答を依頼し、オンラインで回答を回収。
調査時期 : 2024年4月19日~4月22日
女子は中学3年生時点で理系志望が男子より13.5ポイント少なく、将来の職業に関して、技術職への関心も低い
最初に、文理選択や将来の職業に関する調査項目の結果をご紹介します。
文理選択前の中学3年生の時点では、全体の約5割が理系を志望していました。しかし、男女で差があり、男子の理系志望は58.7%に対し、女子は45.2%で、13.5ptの差が見られています。
今回の回答者8,831名のうち、文理選択済みの回答者は7,635名・文理選択がまだ終わっていない回答者は1,196名。文理選択済みの回答者が実際に選んだ進路は、以下の通りです。
理系の比率が高く、男子における理系の割合は約6割・女子における理系の割合が約5割となっております。
文理選択前の回答者を除くと、中3時点で文系・どちらかといえば文系だった回答者で最終的に理系進学した女子は15.4%、男子は14.7%となりました。一方、中3時点で理系・どちらかといえば理系だった回答者で最終的に文系進学した女子は15.7%、男子は15.0%となりました。概ね、15%前後が理転あるいは文転する結果となりました。
将来志望する職業・キャリアについて確認したところ、地域・男女の差異が見られたデータを一つご紹介します。
都市部と地方では職業志向に違いが見られます(※)。都市部では「技術職・専門職」がより高い支持を集めており、女子において都市部は12.1%と、地方(9.2%)よりも2.9pt高い結果になりました。最も支持が高いのは都市部の男子で、30.3%となりました。地方では「医療・看護・保健」分野が人気で、特に女子において31.2%と、都市部女子(26.6%)よりも4.6pt高く支持されています。
※本調査において、都市部は三大都市圏(東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪)を指します。地方はそれ以外を指します。
進路選択において女子は男子より1.6倍多く母親からプラスの影響を受け、特に理系女子は父親からのプラスの影響が文系女子の約2倍に
続いて、進路選択における周囲からの影響についての調査結果をご紹介します。
プラスの影響:男子と女子の差異
周囲から受けるプラスの影響(※)について、女子の場合は29.5%が母親、ついで22.4%が教員、その次に10.9%が父親となるのに対して、男子は18.7%が母親、ついで18.1%が父親、次に17.2%が教員となりました。女子は母親と教員から影響を受けており、特に母親からの影響は男子と比較すると1.6倍です。一方、男子は母親と父親から影響を受けるという結果となりました。
※「どれも当てはまらない」と回答した男女3割弱を除いた影響
プラスの影響:文系女子・理系女子の差異
周囲から受けるプラスの影響(※)について、文系女子の場合は30.3%が母親、ついで24.7%が教員となり、父親から受ける影響は7.8%で、友人から受ける影響(9.0%)よりも低くなりました。一方、理系女子の場合は28.7%が母親、ついで20.5%が教員となり、父親から受ける影響は13.7%でした。理系女子は文系女子よりも父親からプラスの影響を受けた人が約2倍弱高い結果となりました。また、理系女子は文系女子よりも教員からプラスの影響を受けた人は4.2pt低くなりました。さらに、理系女子は映画・ドラマやアニメなどの登場人物からプラスの影響を受ける割合が10.4%と、文系女子(5.8%)の約2倍に上ることがわかりました。
※ 「どれも当てはまらない」と回答した文系女子3割強と、理系女子2割強を除いた影響
マイナスの影響:男子と女子の差異
マイナスの影響(※)については、女子の場合は23.9%が母親、ついで20.2%が父親、その次に19.0%が教員となるのに対して、男子は19.2%が教員、ついで友人が17.1%、有名人やインフルエンサーが16.2%と続き、母親は15.8%、その次に父親が14.0%となりました。女子は母親および父親からマイナスの影響を受け、男子は教員や友人、有名人、両親と多様な要因からマイナスの影響を受けたことがわかります。
※ 「どれも当てはまらない」と回答した男女7割を除いた影響
理系体験率は全体で40%、理系選択者は文系選択者よりも6.8ポイント体験率が高く、性別や地域差はほぼなし
続いて、理系体験(※)が与える影響についての調査項目をご紹介します。
※ 本調査における理系体験とは、プログラミングやロボット製作のワークショップ、企業での職場体験など、科学・技術・工学・数学(STEM)分野への関心を深めるための学びや実践的な機会を指します。
全体では約4割の人が理系体験があると回答しており、理系選択者の方が63.9%と、文系選択者の57.1%と比較すると、6.8pt高い結果となりました。
男女間、地域間の差異はあまりない結果となりました。
実際に参加した理系体験の上位5項目は「実験」「学校の探究授業」「学校の理系関連出前授業」「大学のオープンキャンパス」「科学系イベント講演会」となりましたが、都市部の男子で「プログラミング体験」の割合が高い結果となりました。
「最も印象に残った理系体験はどのような体験でしたか?」という質問に対する回答として、学校外の体験に絞って結果を確認したところ、都市部では「プログラミングやロボット製作のワークショップ」で男子が17.4%と最も高く、都市部女子は10.9%、地方女子は9.5%となりました。
理系に向いていると感じる男子50.1%、女子31.2%、成績に自信があるのは男子60%に対し女子39%といずれも男女で20ポイント近くの差
最後に、文系・理系のバイアスの影響についての調査項目を、男女差に着目してまとめた結果をご紹介します。
「向いている」と感じる?
男子は女子よりも「自分が理系に向いている」と強く感じる割合が高く、男子の50.1%が「理系に向いている」と考えるのに対し、女子は31.2%となり、18.9ptの差が出ました。女子は「理系に向いていない」と感じる割合が約5割も占めており、男子よりも理系に関する自信が低い傾向が見られました。
対象的に、女子は男子よりも「自分が文系に向いている」と強く感じる割合が高くなっている一方で、理系に対する男女の差ほど大きな開きがないことがわかります。女子の48.7%が「文系に向いている」と感じるのに対し、男子は41.2%という結果でした。
良い成績を取ることができる?
男子は女子よりも「理系科目で良い成績を取れる」と強く感じる割合が高く、男子の60.5%が「良い成績を取れる」と考えているのに対し、女子は41.7%であり、理系科目に対する自信は男子の方が18.8ptも高くなりました。理系適性および理系科目での成績に対する自信については、男女間で明確な差が出ました。
一方、最終的には女子の51.2%が理系を選択しており、自己認識と実際の進路選択にギャップがあることもわかりました。
女子は男子よりも「文系科目で良い成績を取れる」と強く感じる割合が高くなりましたが、理系に対する男女の差ほど大きな開きはありませんでした。
将来のために勉強を頑張れる?
向き不向きや成績に対する感覚に差異が出た一方で、将来の夢や就きたい職業のために理系の科目の勉強を頑張れると回答した割合は、男女ともに7割を超えています。
将来の夢や就きたい職業のために文系の科目の勉強を頑張れると回答した割合は、女子が男子の割合を上回りました。
親からの期待はどのように感じている?
親が理系に進むことを期待していると回答したのは男子が39.5%と女子よりも8.8pt高くなりましたが、女子の30.7%も親からの理系進学に対する期待があると回答しました。
親が文系に進むことを期待していると回答した割合は、男女ともにほぼ同じで、女子16.8%、男子16.3%でした。全体として理系進学への期待より低い結果となりました。
理系のキャリアはどのように感じている?
家庭と両立できると回答した割合は、男子が若干多く(56.5%)、女子は51.8%でした。
理系のキャリアが自分が活躍しやすい進路だと思うと回答したのは男子が多く、男子は60.3%、女子は50.2%と、10.1ptの差が出ました。
有識者コメント
かえつ有明中高等学校 理科主任 深谷新先生
今回の調査結果は、中高生に理科を教える立場として日々感じていることを裏付ける内容でした。探究学習では、生徒が自ら問いを立て、方法を考え、結果を整理して考察する過程で、特に女子生徒が内容を深めたり夢中になる姿をよく見かけます。調査では、中学3年生時点で女子生徒の約45%が理系志望であり、その7割が実際に理系進学していることがわかりました。興味深いのは、文理選択に影響を与えた存在として、母親や父親、教員などの「身近な大人」を挙げた割合が女子では7割に達している点です。また、最も印象に残った理系体験として、プログラミングやロボット製作よりも職場体験や科学系イベントなど「人との対話」が生まれる場が挙げられる傾向が強いことも特徴的です。これを踏まえると、中学1~3年生の段階で、理系分野で活躍する大学生や社会人と直接触れ合う「対話会」を学校で実施することが有効と考えられます。さらに、1回きりで終わるのではなく、継続的に授業に来てもらって探究学習の発表や活動中のアドバイスなどに関わってもらうようなしくみができると、「身近な」存在となり、理系進学にプラスの影響を与えられる可能性があります。
学校法人創志学園 クラーク記念国際高等学校 教務開発部 部長 兼 京都・彦根キャンパス長 阿部賢太先生
「男子は理系、女子は文系」という固定概念があることから、今回の調査結果はある意味で納得のいくものでした。しかし、なぜそのような概念があるのかという点から、いくつか興味深い結果がありました。中学3年生時点で理系志望は男子の方が13.5pt高いということ。そして、「理系に向いていると感じる」「成績に自信がある」という質問に対し、それぞれ男女で20pt近い差があるのに関わらず、最終的には女子の51.2%が理系を選択しているということ。この2点から最終的な進路選択をゴールと捉えた時、男女差は想像よりも少なく、その要因として、学校における文理選択時のイメージと男女における自己認識の点が大きいのではないかと感じます。学校現場においては、まだまだ集団教育の要素が強く、中・高校生という集団形成が未成熟の状態では、他人に影響されやすい傾向にあることから、自己認識とは別に集団に動かされる傾向もあると感じます。今後、より一層、個別最適な学びが浸透していった時、本調査における文理選択の分類については、多少変化が生まれてくるようにも感じます。
共同調査を実施した公益財団法人山田進太郎D&I財団のご紹介
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進を通じて、誰もが能力を発揮できる社会を目指し、2021年7月にメルカリCEO山田進太郎によって設立された公益財団法人です。 特にSTEM(理系)のジェンダーギャップに注目し、中高生女子のSTEM分野への進学やキャリア選択を支援する奨学助成金事業を展開しています。2024年より「Girls Meet STEM」事業を開始し、企業でのオフィスツアーや大学でのキャンパス・研究室ツアーを通じて、STEM領域で活躍するロールモデルとの交流機会を提供しています。プログラムは通年で開催され、対面およびオンライン形式で参加可能です。
代表理事:山田 進太郎(株式会社メルカリ 代表執行役 CEO)
設立年月日:2021年7月1日(木)
公益財団法人山田進太郎D&I財団公式ウェブサイト:
本調査の回答者属性
最後に、本調査に協力いただいた回答者の属性をご紹介します。
性別
男子 2,635名(29.8%)
女子 5,939名(67.3%)
わからない/答えたくない257名(2.9%)
学年別
高校1年生 1306名(14.8%)
男子 291名・女子 974名・わからない/答えたくない 41名
高校2年生 2312名(26.2%)
男子 689名・女子 1,541名・わからない/答えたくない 82名
高校3年生 4313名(48.8%)
男子 1,324名・女子 2,882名・わからない/答えたくない 107名
大学1年生 701名(7.9%)
男子 265名・女子 418名・わからない/答えたくない 18名
大学2年生 199名(2.3%)
男子 66名・女子 124名・わからない/答えたくない 9名
都市・地方別
都市 4,007名(45.4%)
男子 1,217名
高校1年生 130名
高校2年生 272名
高校3年生 636名
大学1年生 146名
大学2年生 33名
女子 2,672名
高校1年生 454名
高校2年生 619名
高校3年生 1,285名
大学1年生 250名
大学2年生 64名
わからない/答えたくない 118名
高校1年生 24名
高校2年生 26名
高校3年生 52名
大学1年生 10名
大学2年生 6名
地方 4,824名(54.6%)
男子 1,418名
高校1年生 161名
高校2年生 417名
高校3年生 688名
大学1年生 119名
大学2年生 33名
女子 3,267名
高校1年生 520名
高校2年生 922名
高校3年生 1,597名
大学1年生 168名
大学2年生 60名
わからない/答えたくない 139名
高校1年生 17名
高校2年生 56名
高校3年生 55名
大学1年生 8名
大学2年生 3名
Studyplusトレンド研究所では、学習管理アプリ「Studyplus」のユーザーである若者に向けて、定期的に調査を行っています。
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